クィーン リビング 応接セット編 「想いを繋ぐレストアの輪」
2020.10.01

クィーン リビング 応接セット編 「想いを繋ぐレストアの輪」

長くご愛用いただいた家具には、たくさんの思い出が。レストアストーリーでは、そんな思い出の家具を修理して使い続けるお客さまの声や、実際の修理の様子をご紹介いたします。

ご依頼主:西教寺 村松 華子さま
ご愛用家具:クィーン リビング アームチェア 2脚、ワンアーム 2脚、アームレス 3脚、リビングテーブル 115×115
ご愛用歴:約45年
修理内容:木部剥離再塗装・張替え・ウレタン交換

初めて出会う貴重な応接セット

2020年6月頃の事でした。当社Webサイトの問い合わせに、使い込んだ応接セットの写真が添付された修理・張り替えの依頼が届きました。一見したところかなり古い家具のようで、写真を見た社歴の長いスタッフから「クィーン」の応接セットだと助言がありました。中でも、片肘タイプは製造していた時期が短く、一度工場に確認したほうが良いとアドバイスを受けるほど、修理でご相談いただくことが少なくなった貴重な創業当初のソファーセット。初めて出会う応接セットに、私たちカンディハウススタッフも興味津々です。

ご相談主の村松さまにご連絡したところ、新しい張地を選ぶためにご来店いただく運びに。当時のレザーは取り扱いがなく、同じような色合いにするか異なる色にするかサンプルを持ち帰り、ご検討後ご家族で色合いを決定していただきました。

お引き取り当日、いざ西教寺へ

ご依頼主の「浄土真宗 本願寺派 西教寺」は1630年に建立、その後1657年に火災に遭い、千代田区神田から現在の文京区向丘に移転しました。関東大震災や戦火による被害を免れ、江戸時代の建築である鐘楼や寺院木造建築を見る事ができる、心休まるお寺です。特に西教寺表門は、昭和55年から文京区の有形文化財に指定されており、現存する数少ない赤門の一つです。(現在は本堂改修工事中です)。
今回修理いただく応接セットは先代の住職がご購入されたもので、お寺の大改修に合わせて修理か買換えを検討されていました。

Hockマークを手掛かりに製造元を探して

村松さまが幼い頃から慣れ親しんできた応接セットですが、製造元の手がかりを見つけるのには苦慮されたそうです。手がかりを探していた所、一脚だけHock(ホック)のシールが付いているのを発見。それを頼りに調べたところ、カンディハウスに行き着いたとのこと(調べる前は海外製と思っていたようです)。手がかりがあって本当に良かったと仰っていました。
※「Hock(ホック)」とは、カンディハウスが1970~93年に販売した家具のブランド名称です

ところでこちらの西教寺、なんと江戸の古地図にも載っています。空襲で焼けることなく今の場所に変わらずにありつづけ、現在に至るまで地域の集いの場になっていたそうです。ある時からは、リビングテーブルの塗装のひび割れを隠すためにガラスを置き、天板との間に古地図を挟むように。その地図を来客者と眺めながら、当時からお寺の場所が変わらないという話をすると決まって驚かれ、会話が弾むことが多いのだとか。ご来院される方の中にも懐かしい形の家具に感銘を受ける方が少なくないこともあり、「家具は新しい物に変えることなく、できるならばこのまま使い続けたかった」とお話しいただきました。

ご依頼内容

お寺の客殿でご愛用いただいており、お客さまをお迎えする応接セットとして活躍してた「クィーン」の椅子やテーブル。使い続ける中で、肘の部分や座面の下張りのたるみが目立ち、掛け心地も改善したいと村松さまはお考えでした。

修理を考える中、張り替えだけではなく木部の剥離再塗装もご希望されました。剥離再塗装とは、塗装面を慎重に剥離して新しく再塗装する修理方法です。さらに追加で修理が必要な個所があれば、ぜひ直してほしいとのご要望も。早速お預かりに伺うと、お写真で拝見していた状態よりも、レザーのひび割れや座面の下張りのたるみが気になる椅子もありました。しっかりと修理させていただきます!

修理後の「クィーン リビング」一式

塗装割れが多かったテーブルは、少し厚手に再塗装した事で驚きの艶感で戻ってきました。厚手に塗装しているため、色は以前よりも暗めな印象に。次々に所定の位置に戻ってゆく応接セットを眺めていた村松さま、少々不安なご様子で「次の修理の時にもわかるように、あのシール(Hockのマーク)はそのまま付いているでしょうか?」とのこと。一緒に確認すると、綺麗に修理された家具の背面にはしっかりとHockのシールが。「次の世代もまた修理をお願い出来ますね」と安心していただきました。

45年の家族の思い出とともに

元々アンティークの家具や古道具などがお好きなご主人は、「北海道まで行って、帰ってきたんだね」と、まるで友人の肩に手を掛けるかのように、届いた家具の背もたれを撫で、無事に戻ってきた事を喜んでいるご様子。綺麗になって帰ってきた応接セットをみて、「ずいぶん若返ったわね~!」と奥さまもお母さまも歓喜に満ちておられました。クッション材をすべて交換し、座が沈んでしまうほど下張りがたるんでいたところも張り直したことで、全体的にふっくらとしています。背もたれの左右に入ったギャザーも「可愛いわ」と喜んでいただきました。

最後に、お母さまがソファーに座り、購入当時のお話を聞かせてくださいました。
「始まりは檀家さんのご紹介だったのよね」とお母さまがぽつり。先代のご住職との思い出も回想しているようにお見受けしました。その檀家さんが百貨店にお勤めで見立ててくれたとのこと。人のご縁はどこで繋がっているかわかりませんね。約半世紀に渡り使い続けていただいたのは、良いものを永く使いたいと思う気持ちと、家族愛だと感じました。次の45年も、家族とともに沢山の思い出をつくる応接セットのある暮らしをサポートしてまいります。

【編集後記】
地域に根付いている場所に、静かに佇むカンディハウスの家具がものを言わぬ証人のようで、お預かりとお届けに立ち会った際に感慨深い気持ちになりました。これからも人の集う拠り所として、長く愛される家具でありますようにと願うばかりです。
取材に協力していただいた皆さま、ありがとうございました。
(聞き手:東京ショップ 浅田)