ロカール チェアー編 #02「50年の時を経て受け継がれたロカール」
2021.02.15

ロカール チェアー編 #02「50年の時を経て受け継がれたロカール」

長くご愛用いただいた家具には、たくさんの思い出が。レストアストーリーではそんな思い出の家具を修理して使い続けるお客さまの声や、実際の修理の様子を2回に渡りご紹介いたします。

ご依頼主:栃木県芳賀郡在住 小林さま
ご愛用家具:ロカール チェアー
ご愛用歴:手元に引き継ぎ1年目
修理内容:張替え

前回の記事では、ロカールとの出会いと工場に届いた様子をご紹介しました。今回は職人による工場での修理風景をお届けいたします。

修理工程1「剥がし」

担当はレストア担当の林。創業間もない時期に入社した、今では数少ない社員のひとり。背や座に打ち付けられた大量のタッカーの針を丁寧に外していきます(オリジナルはボタン留めの部分)。アーム部分もオリジナルとは異なり、同様に釘打ちされています。座の裏の紐をほどき、木枠と張地のみの状態になったところで剥がしは完了です。

作業途中「創業当時、長原さん(カンディハウス創業者)がロカールを携え全国を営業で周っていたのをよく覚えているよ」と思い出話をしてくれました。

 
修理工程2「型紙作成」

今回の修理は、経年変化した木部の味わい深さをそのまま活かしたいということで、張替えのみ。背から座にかけて1枚で構成されている張地を、新しい革で作り直します。お客さまが選んだのは黒のレザー。よりオリジナルのロカールに近付きそうです。

ということで、次の工程では新しい張地を用意しますが、ここで問題発生。ロカールは約50年前の製品かつ、縫製を社外で行っていたため、型紙や詳しい資料が残っていないとのこと。この工程を担当する村上も「入社して以来、ロカールのレストアはおそらく今回が初めて。製品に詳しい人もいないし、資料も何も無い。これはなかなか大変ですね…」と苦笑い。

そこで本社に一台だけ残っているロカールを持ってきて、型紙を作るところから始めます。頼りにするロカール自体も、作られたのは数十年前。張地が歪んだり収縮しているので、そのとおりに型を取っては同じように歪んでしまいます。経年による革の変化を踏まえたうえで、綺麗な形になるよう注意深く型をとっていくのがポイントです。

 
修理工程3「縫製」

型紙が完成したら、それをもとに革を裁断し、背や座となる張地をつくっていきます。ステッチを入れた革と革の間には、掛け心地が良くなるようウレタンを入れて張り合わせていきます。しっかりと厚みのある大きな革を張り合わせていくため、使用するミシンは通常よりもパワーのあるミシンで。

 

縫製担当の住吉も「当時の資料が残っていないのが大変なところね」と話します。細かな部分は実際に部品を合わせ、縫う場所を決めていきます。

ところで、縫製用のミシンがある場所は窓際のため「冬はとっても寒いのよ」と、雪深い旭川ならではの悩みを。「寒いけど、窓際は光が入って革の傷や汚れにすぐ気付くことができるから、縫製作業をするにはこの場所が最適」と話してくれました。

修理工程4「上張り」

苦労して型紙からつくった張地をいよいよ木部に被せます。数十年経過した木部もサイズが微妙に変化しているため、綺麗に被せるのもなかなか難しいようです。ところどころ調整しながら、なんとか取り付けることができました。

最後に座裏の紐を編んで修理は完成と思いきや「今日は一旦置いておいて、明日もう一度紐をきつく締め直します。そうすることで、より網目が頑丈になるので。せっかくお客さまの元に届いたのに、すぐに紐が緩んできたとなると申し訳ないし、お客さまも残念な気持ちになるでしょう」とのこと。

翌日もう一度紐を締め直して、ようやく修理は完成です!

 

ところで、ロカールは座の後ろが紐で編んであるのも特長のひとつ。このように座の裏を紐で編むのは、当時一般的な手法だったのか質問すると「一般的ではないと思います」との返答が。

「なぜロカールがこのような仕様になっているかと言うと、当時からカンディハウスのものづくりの理念として『修理できること』を意識していたから。こうやって紐で結んであると、簡単に部品をばらすことができてメンテナンスもしやすいでしょ?木部は100年使えるけど、布や革はそうはいかない。劣化した張地を簡単に取り替えられるようにしておけば、家具は100年でも使える。そんなものづくりを、当時から目指していたからこその仕様でしょうね」

50年経った今、まさに修理してこの先も使い続けようとしている人がいます。創業当時の想いが脈々と受け継がれ実現されていることを再認識できた、素晴らしい機会となりました。

修理完了
 

青い布地が張られていたロカールは、黒のレザーに張替えたことで格調高い雰囲気に。

 

裏表が逆に取り付けられていたアームの金具も、この通り元通りに。

 

タッカー留めされていた背の部分も、本来の仕様通りボタン留めに。座裏も新しい紐でしっかりと結びます。こういった細かな部分が、100年先に向けてのメンテナンスに繋がります。

さて、完成したロカールはご依頼主さまのもとへ。生まれ変わったロカールを喜んでいただけるでしょうか??

納品後

直前まではお伺いする予定でしたが、今回はコロナ過で県をまたぐ移動がはばかられる状況とご自宅のリフォーム前ということもあり、実際に納品に立ち会うことはできませんでしたが、後日感想を伺いました。

無事にロカールが我が家へ戻ってきました。
落ち着きあるロカールの姿に、とても安心しました。座り心地も最高です。
修理の様子を浅田さん経由で伺いましたが、技術も含め、丁寧なお仕事に安心と信頼が持てますね。
電話とメールでの対応も丁寧で、とても満足しています。
きれいになったロカールは、読書や趣味の時間、寛ぎの時など、日常的にたくさん座る椅子になりそうです。
この度はありがとうございました。

【編集後記】
カンディハウス第一号の製品である「ロカール」。1969年に発売したロカールは半世紀を経て、里帰りを果たすことが出来たのは、小林さまの「ものを大切にしたい心」が叶えてくださった修理でした。
形あるものはいつか壊れてしまったり、修理が必要な場合もあります。「直して使い続けたい」と思ってもらえる家具をお客さまへ届ける仕事は、 沢山の笑顔と出会い、 お役に立てることが嬉しく思います。
非対面で修理のご相談が増えているため、今後も様々な地域にお住まいのお客さまのご相談をお待ちしております。(東京ショップ:浅田)